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故 細山長司さんとの思い出

2017年07月12日
澄み切った冷気、抜けるような青空、滔滔と水をたたえ流れる大河。

太い流れに溶け込む杭のように立ち込んで、長竿を振り続ける釣り師が一人。

2013年11月中旬、僕は北海道・十勝川でその人を撮影していた。

河畔の浅瀬には氷が張り、フリースの帽子をかぶっていても頭がじんじんと痛い。
もちろん手袋をはめているが、冷え切って感覚が消えかけている。

しかし、その釣り師は、寒さなどお構いなしに、物干し竿のように太い本流竿を握りしめ、大型のアメマスを狙って仕掛けを打ち返していた。

「やはり、この人ほど絵になる釣り人はいないな」

いつも以上に、そんな想いにとらわれながら、凍える手でカメラのシャッターを切り続けた。



本流大物師、細山長司さん。

サクラマスやサケなどのサケ科魚類をこよなく愛し、のべ竿で大物と勝負することに執念を燃やし続けた本流釣りの第一人者。

その情熱は国内だけにとどまらず、海外へも飛び火し、アラスカやカナダへ足を運んで、のべ竿一本でキングサーモンやスチールヘッドと真っ向勝負。キングサーモンとの壮絶なやり取りをする映像に、衝撃を受けた釣り人は多いはずだ。

伝説の本流釣り師が7月5日、他界した。



細山さんのことは釣り雑誌社で駆け出しの編集者をしていたころから知っていた。けど、長い間、お会いする機会はなかった。

初めてお会いしたのは、2008年のこと。ちょうどこの年、シマノからカメラマンとしての仕事がもらえるようになり、同社の渓流インストラクターとして活躍されていた細山さんを撮影させていただけることになった。

長野県阿知川で初めてお会いした細山さんは、おっとりした口調で、いつもにこやかな表情をして、緊張気味の僕を優しく迎え入れてくれた。

でも、釣りをしているときは真剣そのもので、目印に出る一瞬のアタリを追う姿や、尺超えのアマゴとやり取りする様は、鬼気迫るような迫力を感じた。

この年から僕は毎年、細山さんを撮影している。

2009年 利根川、渡良瀬川
2010年 埼玉県荒川
2011年 山梨県笛吹川
2012年 岐阜県長良川、吉田川
2013年 北海道十勝川
2014年 山梨県桂川
2014年 新潟県荒川
2015年 新潟県荒川
2016年 長野県犀川

2012年には長野県松原湖でワカサギ釣りも撮影させていただいた。

グローブのようにごつい手で、女性の小指ほどもない小さなワカサギを釣られている姿は、本流大物釣りで見ていた凄みのある姿とかけ離れていて、なんだか滑稽に思えた。

けど、ワカサギ釣りも渓流釣りと同様に真剣に釣っていることがすぐに分かった。

穂先に出るか出ないかの微妙なアタリを鋭く感じとって、次々と掛け合わせる。食わなければ、手を替え品を替えて、1回でも多くのアタリを取る。集中力が途切れることがない。

おそらく、こんな繊細さを極める釣りができていたからこそ、本流に潜む大物が、そっとエサをさわりにくる気配を感じて掛け合わせられたのだと思う。



65歳を超えてもなお少年を思わせる純粋な眼差しで釣りに向き合っていた細山さん。数多くの釣り人に慕われ、目標とされてきた。

僕も、そんな細山さんを毎年撮影させていただけることに、カメラマンとしての誇りをひそかに感じていた。

このところ体調を崩されていると聞いて心配していたけど、きっと復活されて、今年もどこかの河川で大物釣りの撮影をさせていただけるものと思っていた。

闘病生活では、大好きな釣りに行けず、悶々とした日々を過ごされてきたのだと思う。

きっと今ごろは身動きの取れなかった身体から解き放たれ、三途の川に立ち込み、あの鋭くも優しい表情で竿を振られているのだと思う。

細山さん、いままでたくさんの写真を撮らせていただいて、ありがとうございました。

合掌