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オジサンの逃走劇

2012年04月09日
釣りの水中撮影をメインにした商品を作りたい。もうずいぶん長い間、温めてきた私の希望です。サーフェースで一つ一つ実現していこうと思っています。なぜ、そんな希望をいだくようになったのか、そのきっかけになった水中シーンがあります。

10年ほど前、釣り雑誌社に勤めていた私は、自費で水中写真の機材を購入し、あちこちの水辺で潜って自分の作品を撮っていました。ポジフィルムとストロボを使った水中撮影はかなり特殊な技術と経験の蓄積が必要で、マスターするまでに数え切れないぐらい失敗を繰り返しました。ある程度慣れてきたころ、釣り雑誌でもそのスキルを活用しようと、釣りの仕掛けを潜って観察するレポート連載を持つことになりました。

沖磯でウキフカセ釣りの仕掛けのなじみ方を水中観察する取材をしていたときのこと。仕掛けがなじみ海底近くまでサシエが届いたところでウキが吸い込まれていきました。釣り人がアワセを入れると、海底で赤い魚が翻りました。その魚がユーモラスな口ヒゲをたくわえたオジサンであることはすぐに理解できました。ファインダーごしに魚の逃走する姿を追いかけていたのですが、次に見せた行動に「あっ」と声を上げました。

オジサンは口に刺さった異物(ハリ)を外そうと懸命に首を振って逃走していたのですが、磯際に沿って泳ぎ始めた途端、自分の口を磯に押し当て、気が狂ったようにこすり始めたのでした。竿の抵抗に負けて、わずか数秒で磯際から引き離され、オジサンはあっけなく釣り人に引き抜かれましたが、この数秒の行動が私の脳裏に鮮烈に刻まれたのでした。

磯で型のいい魚を掛けて根に張り付かれることは少なくありません。こんなとき、強く引っ張ると余計に張り付くから、ラインをフリーにして「ハリが外れた」と思わせて自然に泳ぎ出すのを待った方がいいと、釣り人なりの解釈で説明されます。私もこの言葉を鵜呑みにして実行していました。しかし、フリーで待っている間にいつの間にかハリがポロッと外れて「あれれ?」という経験をしたことが何度かありました。

魚にとっては生きるか死ぬかのまさに瀬戸際。おそらく、私がラインを緩めて待っている間に、魚は必死になって岩に口をこすりつけ異物を外していたのでしょう。そんなシーンが目に浮かびます。

釣りは想像の遊びだといわれます。水の中のことを推理して、魚の気配や仕掛けの動きを感じ取り、イメージ通りに魚を食わせる。それが醍醐味です。水の中の出来事を見て知ることで、想像力がより具体的になり釣りそのものが理解しやすくなります。魚の行動、マキエの流れ、仕掛けの動きといった実釣に即した視点だけでなく、水質の汚れ、海底に沈むゴミ、在来種の危機など、環境問題についても具体的に知ることができます。

英語で水面のことを surface といいます。陸上の世界と魚の世界を隔てるいわば境界です。釣り人の世界と魚の世界をつなぐポジションで様々な情報を発信していきたい。社名には、そんな思いが託されています。